保健医療学部

作業療法学科

Department of Occupational Therapy さいたま岩槻キャンパス

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「新型コロナウイルス感染症がもたらす社会と心の反応」作業療法学科 重村淳教授

  • 2019年8月、ポルトガルの国際学会でのシンポジウム発表

今年度より保健医療学部作業療法学科に重村淳教授が着任されました。
着任前は、所沢市にある防衛医科大学校精神科に勤務し、病院業務・研究・教育を行っていました。本学では「精神医学」の授業を担当されます。

新型コロナウイルス感染症がもたらす社会と心の反応
作業療法学科 重村淳

皆さんは、精神医学と聞くとどのようなイメージが浮かぶでしょうか。
うつ病や統合失調症などの心の病気かもしれませんし、発達障害、摂食障害、認知症など、さまざまな病気を扱うのが精神医学です。 その中で、「災害精神医学」をテーマに研究をおこなっています。分かりやすくすると「災害と心」です。

日本は、世界の中でも自然災害がとても多い国です。災害がいかに人々の心に影響を与えるのかは、1995年の阪神・淡路大地震、2011年の東日本大震災・福島第一原子力発電所事故、2016年の熊本地震、2019年の台風15号・19号などで、多くの人が実感することとなりました。 たとえどんな過酷な体験をしても、ほとんどの人は回復する心の力を持っています。 しかし、一部の人には、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と呼ばれる病気などに苦しむ場合があります。 どのような人が回復するのか?悪くなるのか?それを防ぐにはどうしたら良いか?などをテーマに長年研究してきました。

新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)で生じている社会現象も、「災害と心」というキーワードを用いるとより理解できます。COVID-19は新しい病気ですが、このように目に見えない災害は決して初めてではありません。
原発事故、地下鉄サリン事件などがそうです。実は、これらが与える心への影響には共通点があります。目に見えない災害は、体感できる災害(地震や津波など)と比べて、対応が複雑になります。さらに、COVID-19のように目に見えない上、他人から移るかもしれない病気は、とにかく怖くてストレスがたまります。何が正しいのか、何が安全なのか、情報が複雑に入り交じり、分かりづらくなります。強い不安があると、人々は強い怒りを感じたり、その感情を外に出したりして、無意識のうちに気持ちを和らげようとします。しかし、それが他人への攻撃として現れることがあります。その結果、人々が差別・中傷・いじめなどの行動に向かうことがあります。

残念なことに、最近のニュースでは、感染者やそのご家族、医療・福祉・配送・清掃従事者が差別・中傷されることが繰り返し報道されています。感染者もそのご家族も、この病気と果敢に闘ってきました。医療・福祉・配送・清掃業従事者たちは、文字通り命をかけて、最前線で働いてくれています。そして、その人たちの頑張りがあるからこそ、我々も日常を続けることができます。作業療法士も、その例外ではありません。

皆さんの周りにこのような人々がいると、もしかしたら不安になるかもしれません。それは、目に見えない災害として自然な現象です。でも、そのときには悪いのは「その人たち」ではなくて、あくまでも「ウイルス」です。そのように他人の気持ちに立ってみると、出てくる言葉は「差別と中傷」ではなく、「敬意とねぎらい」になるはずです。

COVID-19は未知の病気ですが、世界中の研究者たちが猛烈な勢いで研究を進めています。そのため、1ヶ月前には分からなかったことも今日には分かるようになってきました。予防や治療についても、次第に方法が見えてくるでしょう。何より、人類は、あらゆる感染症の大流行を経験してきましたが、その都度克服してきました。明けない夜はありません。

COVID-19による心の影響を和らげるためには、①しっかりと希望を持って、②ストレスがたまったら健全に発散して、③他人の気持ちに立って周りに優しくすること、が大切だと思います。