保健医療学部作業療法学科 重村淳教授のコメントが医学誌「ランセット」、報道誌「デア・シュピーゲル」のニュース記事に掲載されました。
「ランセット(The Lancet)」は「JAMA」と並ぶ『四大医学雑誌』で、1823年創刊の歴史ある学術誌です。「デア・シュピーゲル(der Spiegel)」は、発行部数がヨーロッパで最も多いドイツのニュース週刊誌です。これらでは、東日本大震災・福島第一原発事故10周年に伴い特集記事が組まれ、福島県民におけるメンタルヘルス(心の健康)の課題として重村教授のコメントが紹介されています。
2011年3月11日の東日本大震災・福島第一原子力発電所(以下、福島第一原発)事故から10年が経ちました。犠牲になられた方々のご冥福をお祈りするとともに、ご遺族の方々や、避難生活を余儀なく続けられている方々に心からお見舞いを申し上げます。
福島第一原発は地震と津波の被害を受け、発電所の爆発、炉心融解、放射線物質の放出という大惨事となりました。福島第一原発事故は、放射線被ばくがもたらす今後への健康の不安だけでなく、避難生活による環境の変化、家族の離散など、住民の日常への多大な影響を及ぼしています。
重村教授は、2011年の福島第一原発事故後、福島第一原発および隣接する福島第二原発所員を対象としてメンタルヘルス支援(いわゆる「心のケア」活動)を長年行ってきました。所員たちは、津波や爆発で制御不能となる原発で決死の復旧作業に挑みました。それだけでも強烈なストレスですが、多くの所員たちはそれに加えて地元住民として避難者となり、一部の人々は身内・友人・同僚の死をも体験しました。さらには、事故に対する社会的批判が所員の差別・中傷につながっていきました。このようなストレス体験、なかでも差別・中傷体験が心に悪影響を及ぼしたことを「アメリカ医師会雑誌(JAMA: Journal of American Medical Association)」論文などで発表してきました。
「ランセット」では、震災後の福島県の自殺率上昇、健康への不安、社会的差別の影響という問題点を挙げています。「デア・シュピーゲル」では、原発事故によって各方面での社会的緊張がもたらされ、社会的な結びつきが弱体化したことを指摘しています。今後、福島第一原発の廃炉作業には、数十年かかることが懸念されています。生じている課題に対して、引き続き社会全体で取り組んでいくことが求められています。
ランセット(The Lancet) 記事
The 2011 Tōhoku disaster: 10 years on(2011年の東北での災害:その10年後)
The Lancet 397(10277) 866-867, 2021.
オンライン版公開日:2021年3月6日(無料登録要、英語)
デア・シュピーゲル(der Spiegel) 記事
Zehn Jahre nach der Kernschmelze in Fukushima(福島でのメルトダウンから10年)
オンライン版公開日:2021年3月9日(有料会員専用記事、ドイツ語)