保健医療学部作業療法学科 重村淳教授によるウクライナ侵攻に関するメンタルヘルスの論文2編が『Psychiatry and Clinical Neurosciences』に掲載されました。
作業療法士はメンタルヘルスにも携わる職種であり、災害や人災になどでこころの傷を受けた人々に寄り添い支援する職種でもあります。
2022年2月24日に始まったウクライナ侵攻は、世界の安全保障を根底から覆す大惨事となっています。戦禍による過酷なストレス体験は、影響を受けた人々の心の健康（メンタルヘルス）に深刻な影響を及ぼします。その影響は直接の被害者だけではなく、その脅威にさらされている人々や間接的な影響を受けた人々をも含みます。
「Preparing for the mental health consequences of a nuclear event in Ukraine: The time is now（ウクライナでの原子力事案に対するメンタルヘルス影響への準備：今のうちに備えを）」では、原子力災害がもたらすメンタルヘルスへの影響とその対策について論じています。
ウクライナには、史上最悪の原子力発電所（以下、原発）事故の舞台となったチョルノービル（チェルノブイリ）原発があります。そしてウクライナ侵攻では、そのチョルノービル原発が軍事攻撃の対象となりました。この論文では、広島と長崎の原爆投下、チョルノービル、福島第一原発事故から得られた学術的な教訓を考察し、メンタルヘルスへの影響を和らげるための方策（事前の教育や啓発、避難民への不当な差別・中傷への対策など）を論じています。
「Mental health consequences of individuals affected by the 2022 invasion of Ukraine: Target populations in Japanese mental healthcare settings（2022年のウクライナ侵攻で影響を受けた人々のメンタルヘルスの転帰：日本のメンタルヘルス現場においてケア目標となる集団）」では、日本のメンタルヘルス専門家（精神科医師、臨床心理士、作業療法士、看護師など）が戦争の影響を受けた人々に関わりうる状況を解説しています
その人々とは、ウクライナ人の避難民だけではありません。ウクライナ・ロシア・ベラルーシ出身の在日コミュニティ、ウクライナ・ロシア・ベラルーシに滞在する日系コミュニティの人々も含みます。たとえば、避難民には「戦災」という過酷な体験だけでなく、避難先への適応という二重の挑戦があります。また、一部の人々には社会的な憎悪が向けられる懸念があります。このような苦難を細かく理解し、専門家たちがいかに寄り添うかを論じています。
- 論文名：Preparing for the mental health consequences of a nuclear event in Ukraine: The time is now
- 筆 者：Joshua C. Morganstein, Robert J. Ursano, David M. Benedek, Mie Kurosawa, Jun Shigemura
- 掲載誌：Psychiatry and Clinical Neurosciences
- 出版年：2022年（オンライン先行公開）
- U R L ：https://doi.org/10.1111/pcn.13363 （無料公開）
- 論文名：Mental health consequences of individuals affected by the 2022 invasion of Ukraine: Target populations in Japanese mental healthcare settings
- 筆 者：Jun Shigemura, Sho Takahashi, Hazuki Komuro, Tetsufumi Suda, Mie Kurosawa
- 掲載誌：Psychiatry and Clinical Neurosciences
- 出版年：2022年（オンライン先行公開）
- U R L ：https://doi.org/10.1111/pcn.13369